こんにちは、紅サンタです!
建物を所有していたり、飲食店等の事業所を開業すると誰かから、こう言われることがあります。

消防法で防火管理者が必要ですよ。
でも、本当に消防法で防火管理者が必要なのか、そもそも防火管理者が何で必要なのかを、自分で確認してみたでしょうか。
未確認のまま行動してしまうと、いたずらに時間や費用を使ってしまう事や、誤った防火管理者を立て、実質的には意味のない事をしてしまうかもしれません。
この記事では、防火管理者の選任意義、要否の判断、について解説したいと思います。
防火管理者はなぜ必要なのか?
そもそも法令での義務になるか以前に、なぜ防火管理者が必要とされているのか。

建物所有者や、事業主は忙しいから!
※ 建物所有者や事業主自身が防火管理を行う事を阻むものではありません。
建物や事業所内でのあらゆる事柄の最終責任者(防火管理業務含む)は、その建物や事業所の長であり、管理について権原を有する者(管理権原者)である建物所有者や事業主です。
「あらゆる事柄の最終責任者」である以上、建物所有者、事業主等は、防火管理業務以外にもあらゆる事柄に対して、判断して指示を行っています。
その判断や指示を1人ですべてを行う事は困難です。
そのことから、防火管理に関する権限(判断、指示等)を、防火管理者に委譲して、防火管理者が業務を代行することで、組織的に実効性を確保することが、防火管理者を選任する意義となります。
会社等の組織の中に○○部、○○課等の担当が分かれているのと同じで、任務分担の一部ですね。
ただし、これは建物所有者、事業主が自ら防火管理者となることを、阻むものではありません。
むしろ、建物所有者、事業主等の最終責任者が行う事で、即断即決できることもあるのも事実ですし、小規模な建物や事業所は後から出てくる防火管理者の資格要件を満たすものが自身以外いない場合が多く、自ら行う事が多いです。
防火管理者が義務になる要件とは?
防火管理業務自体はどの様な建物、事業所においても、社会的責任やリスク管理の面から必要となります。
ですが、皆の自主性に期待しているだけでは、安全が確保されない可能性があることから、ある一定規模の建物、事業所の管理について権原を有する者(管理権原者)に対して、防火管理者の選任及び業務を実行させることを法令で義務化しています。
その「ある一定規模」の判断は、基本的に下記の2つの条件から判断します。
詳しく見てみましょう。
法令根拠
防火管理者を選任にすることを義務としているのは、消防法です。
学校、病院、工場、事業場、興行場、百貨店(これに準ずるものとして政令で定める大規模な小売店舗を含む。以下同じ。)、複合用途防火対象物(防火対象物で政令で定める二以上の用途に供されるものをいう。以下同じ。)その他多数の者が出入し、勤務し、又は居住する防火対象物で政令で定めるものの管理について権原を有する者は、政令で定める資格を有する者のうちから防火管理者を定め、政令で定めるところにより、当該防火対象物について消防計画の作成、当該消防計画に基づく消火、通報及び避難の訓練の実施、消防の用に供する設備、消防用水又は消火活動上必要な施設の点検及び整備、火気の使用又は取扱いに関する監督、避難又は防火上必要な構造及び設備の維持管理並びに収容人員の管理その他防火管理上必要な業務を行わせなければならない。
長いのでマーカーを引いたところだけ見れば大丈夫です。要約すると…
建物所有者、事業主に対して、防火管理者の選任と、業務を行わせることを義務付けています。
「政令で定める」と書かれてい部分は、消防法施行令に記載されたものという意味で、消防法施行令の該当部分、第一条の二第三項を見ると、5件の要件が確認できます。
条文を見てもわかりづらいので、要約すると…
① | 災害時に自力で避難することを困難なものが入所する社会福祉施設を含む建物のうち、建物全体の収容人員が10人以上のもの |
② | 飲食店、物品販売店、ホテル、病院などの不特定多数の人が出入りする用途を含む建物のうち、建物全体の収容人員が30人以上のもの |
③ | 共同住宅、工場、事務所などの用途のみの建物のうち、建物全体の収容人員が50人以上のもの |
④ | 新築工事中の建築物で、大規模なもの(地階を除く階数が11階以上あり、かつ延べ面積が1万㎡以上ある等) ※別に他条件付き |
⑤ | 建造中の旅客線で収容人員が50人以上のもの ※別に他条件付き |
防火管理者が選任が法令で義務となる、主な要件は上の表の①~③です。
この要件は2つの要素で構成され、義務となるかどうかが判断されます。
- 【STEP1】建物全体の使用用途はなにか
- 【STEP2】建物全体の収容人員がボーダーライン以上か
①、②は災害時の危険性の高い使用用途を含む建物となっており、③は比較的災害時の危険性が低い使用用途のみの建物となっている点は、注意してください。
この他にも地方公共団体(都道府県や市区町村等)が定める条例(火災予防条例)で必要となる要件もありますが、基本的には特殊な建物だと義務になる程度の認識があれば大丈夫です。
【STEP1】建物全体の使用用途はなにか
この判断をするのには、自身の建物が消防法で、どういった使用用途の扱いになるかを知る必要があります。
消防法での主な使用用途の区分は下表のとおりです。色分けは、上表の法令で義務となる主な要件の①=赤、②=黄、③=青のどれに該当するかを表しています。
消防法令では俗に、①=赤、②=黄は特定用途、③=青は非特定用途と呼びます。

使用されている建物は、基本的にこの1~16項の中で、さらにイ~二で細分されるどれかに判断がされます。
例えば、簡易的な下図のような使用用途の3階建ての建物があったとします。

1、2階に飲食店=3項ロ部分、3階に事務所=15項部分があるので、建物全体の使用用途は基本的に複合用途(16項イ)になります。
俗に「みなし従属」、「機能従属」と呼ばれる例外に該当する場合、複合用途(16項イ)ではなく、飲食店(3項ロ)となることもありますが、この条件等は別の記事で解説したいと思います。
【STEP2】建物全体の収容人員がボーダーライン以上か

うちは飲食店=3項ロ。従業員3人+客席22席=収容人員25人!30人未満だから防火管理者は必要ないね!

計算方法、ちゃんと確認しましか?建物全体で計算しました?
防火管理者の選任が必要か、不要かの判断で、一番解りづらいがこの収容人員という概念です。
用途によって収容人員の計算方法が法令(消防法施行規則第一条の三)で定められており、計算をする必要があります。
例えば下の図のような3階建ての建物があったとします。

1階は物品販売店(4項)、2階は飲食店(3項ロ)、3階はテナントが入っておらず使用されていない建物の場合、使用用途が2つあるので、建物全体でみると用途は16項イ(6項ロなし)です。
16項の建物の場合、それぞれの用途部分を計算して、合算した数が建物全体の収容人員になります。
それぞれの収容人員の計算は下の通りです。タブをクリックすると用途ごとの計算が切り替わります。
- 1階物品販売店(4項)
- 2階飲食店(3項ロ)
次に掲げる数を合算する。
1 従業者の数
2 主として従業者以外の者の使用に提供する部分について計算した数
・ 飲食、休憩に提供する部分:当該部分の床面積を3㎡で除した数
・ その他の部分:当該部分の床面積を4㎡で除した数

物品販売店状況 | 計算 | 合計 | ||
---|---|---|---|---|
従業員数 | 3人 | 3 | 17人 | |
従業員以外に 提供する部分 | 飲食、休憩に 提供する部分 | 10㎡ | 3(10㎡/3) | |
その他の部分 | 44㎡ | 11(44㎡/4) |
次に掲げる数を合算する。
1 従業者の数
2 客席の部分ごとに計算した数
・ 固定式の1人掛けいす席:いす席の数
・ 固定式の長いす席:長いす席の正面幅を0.5mで除した数(整数以下切り捨て)
・ その他の部分:当該部分の床面積を3㎡で除した数

飲食店状況 | 計算 | 合計 | |||
---|---|---|---|---|---|
従業員数 | 3人 | 3 | 24人 | ||
客席 | 固定式いす席 | 1人掛け | 6席 | 6 | |
長いす | 2席 | 8(2m/0.5+2m/0.5) | |||
その他の部分 | 21㎡ | 7(21㎡/3) |
3階は使用していないので、収容人員は0人です。これらを合算して建物全体の収容人員は…
1階物品販売店 | 2階飲食店 | 3階空室 | 合計 | |
収容人員 | 17人 | 24人 | 0人 | 41人 |
16項イ(6項ロなし)の防火管理者選任義務が生じるボーダーラインは30人以上のため、この建物の建物所有者、事業主は消防法により防火管理者の選任義務が生じます。

なんだか計算が難しいなぁ…
たしかに、根拠となる法令(消防法施行規則第一条の三)を読んで理解しないと、計算は難しいです。
まずは、大まかな数値で良いので計算してみると良いでしょう。それで明らかにボーダーラインを超過するのであれば、正確に計算しても恐らく超えます。
これをしないと法令的に義務かどうかの判断がつかないので、用途別の詳しい収容人員の計算方法については、別の記事で解説したいと思います。
正直、防火管理者の要否の判断で、ここが一番解りづらいです。実測値で作成した簡易的なものでも良いので店舗の図面等を持って、消防機関に相談するのが一番早いと私は思います。
防火管理者の選任人数
建物全体の用途と収容人員で防火管理者の選任義務の判定をしますが、その義務を課されるのは、建物内すべての管理について権原を有する者(管理権原者)となります。
つまりは、基本的に管理権原者ごとに防火管理者を選任する必要があり…
建物内の管理権原者の数 = 建物内の防火管理者の数 となります。
管理権原者とは、建物のその空間を法律や契約等で管理すべき人をいいます。
例としては…
- 建物所有者は、自身が持っている建物は自身で管理して当然。
- 建物の部屋等を借りている賃貸借人は、建物所有者等と契約してその空間を自由出入りして使用しているのだから管理して当然。逆に建物所有者は、契約によりその空間に自由に出入りすることが出来なくなるのだから、管理できなくなる。

トナカイ、イヌ、パンダの全員、それぞれの部分の管理について権原を有している
この例であれば、管理権原者は3人なので、それぞれが防火管理者を選任する必要があり、基本的に建物内に防火管理者が3人いる状態になります。
防火管理者の資格とは?
防火管理者は誰でもなれるものではありません。一定の条件を満たしている者を選任しましょう。
法令(消防法施行令第三条)で規定されてる、防火管理者として選任できる者の条件は、2つです。
防火管理に関する知識
当たり前ですが、防火管理者として業務をするためには、防火管理に関する知識を持っていなければ業務をすることはできません。
「当サイトを見て頂ければ大丈夫!」と言いたいところですが、法令(消防法施行令第三条)はこれを許してはくれません。
基本的には防火管理講習というものをを受けて、修了することで「知識ついたね!」となります。
その他に、安全管理者、一級建築士等、一定の防火管理者として必要な学識経験を有すると認められる者は、講習を受けなくても「知識あるね!」となります。
詳しく知りたい方はクリック(防火管理者として必要な学識経験を有すると認められる者)
市区町村の消防職員 | 1年以上管理的又は監督的な職にあった者 |
安全管理者 | 労働安全衛生法に規定する安全管理者として選任された者 |
防火対象物点検資格者 | 防火対象物点検資格者講習の課程を修了し、免状の交付を受けている者 |
危険物保安監督者 | 危険物保安監督者として選任された者で、甲種危険物取扱者免状の交付を受けている者 |
保安管理者、保安統括者 | 鉱山保安法に規定により保安管理者、保安統括者として選任された者 |
国又は都道府県の消防事務従事職員 | 1年以上管理的又は監督的な職にあった者 |
警察官又は警察職員 | 3年以上管理的又は監督的な職にあった者 |
建築主事又は一級建築士 | 1年以上の防火管理の実務経験を有する者 |
市区町村の消防団員 | 3年以上管理的又は監督的な職にあった者 |
講習は、乙種と甲種の2種類あり、乙種が小規模な建物、事業所用の講習。甲種が小規模から大規模までのどんな建物、事業所でも対応する講習となります。
講習は、各消防機関や総務大臣の登録を受けた団体が行っています。
カリキュラムは法令で定められており、乙種が1日だけの講習。甲種が2日間の講習となります。
消防機関の講習に関しては、受講条件(管轄の建物で防火管理者になる者等)がある場合が多いので、問い合わせて確認してみてください。
乙種、甲種判断
受ける講習が、乙種でも良いのか、甲種でなければダメなのかの判断は、STEPが2つあります。
【STEP1】建物全体の用途+延べ床面積=建物区分を判断。←建物所有者はこの区分の講習を受講
義務区分 | ①(6項ロのある建物) | ②(6項ロ以外の特定用途建物) | ③(非特定用途建物) | ||
延べ床面積 | すべて | 300㎡以上 | 300㎡未満 | 300㎡以上 | 300㎡未満 |
建物区分 | 甲種 | 甲種 | 乙種 | 甲種 | 乙種 |
【STEP2】STEP1の建物区分+テナント用途+テナント収容人員=テナント区分を判断
建物区分 | 甲種 | 乙種 | |||||
テナント用途 | 6項ロ | 6項ロ以外の特定用途 | 非特定用途 | すべて | |||
テナント収容人員 | 10人以上 | 10人未満 | 30人以上 | 30人未満 | 50人以上 | 50人未満 | すべて |
テナント区分 | 甲種 | 乙種 | 甲種 | 乙種 | 甲種 | 乙種 | 乙種 |
例図

管理的又は監督的な地位にある者
防火管理者は、組織の中で責任ある者(役職等を持つ者等)でなければいけません。
これは防火管理者を置く目的が、防火管理業務を組織的に実効性を確保することであることに起因します。
例えば、会社の廊下(避難経路)に段ボールを積み上げて保管してあったとして、防火管理者が監督的地位の者と、そうで無い者であった場合、どうなるかというと…
パターン1 一般社員が防火管理者だった場合

あ!この段ボール、燃えてしまったら避難できなくなるな…物置に移動しよう。

ちょっと!勝手に移動しないでよ!

すみません。でも、ここにあると火災が起きたら危ないので、物置に移動しようと…

いや、物置だと使い辛いからここに置いといて!

そうなんですね。でも、これは会社運営上必要なことだから、一旦移動して、事務室に別のスペースを作ったほうが良いです。

それは分かったけど、そのスペースを作るために、皆に余計な仕事が増えるんだけど!

防火管理上、移動しないとまずいけど、立場的に逆らえない…
パターン2 管理職が防火管理者だった場合

あ!この段ボール、燃えてしまったら避難できなくなるな…おーい、○○君、物置に移動してくれますか?

あ!どこに持っていくんですか!?

すみません。でも、ここにあると火災が起きたら危ないので、物置に移動しようと…

いやいや、物置だと使い辛いですよ!ここに置いておいてください!

そうなんですね。でも、これは会社運営上必要なことだから、一旦移動して、事務室に別のスペースを作るように調整しますよ。

確かにこの人なら、人を使ってそれもできるか…、引き下がろう
これは極端な例ですが、防火管理業務を行う上で組織内の立場、人間関係により実効性が変わる事を表しています。
管理監督的地位の者であれば、部下に指示する権限等があり、責任を持つ身で有るからこそ実効性が担保される訳ですね。
届出
防火管理者を定めたら、消防機関(消防署)へ「防火管理者はこの人です。」という書類を届出ましょう。
前項の権原を有する者は、同項の規定により防火管理者を定めたときは、遅滞なくその旨を所轄消防長又は消防署長に届け出なければならない。これを解任したときも、同様とする。
届出先は、建物の住所を管轄している消防機関(消防署等)です。検索エンジンで「○○県○○市○○町 管轄 消防」とでも検索すれば、届出先は大体調べられます。
届出方法は、各消防機関によって対応しているものが変わりますが、窓口、郵送、オンラインが一般的です。
初めての届出は、書類に不備があることが多いので、届出時にその場で訂正が可能な窓口をお勧めします。
窓口 | 郵送 | オンライン | |
メリット | ・届出時に不備があっても、その場で訂正可能な場合が多い | ・時間、場所に縛られない | ・時間、場所に縛られない ・副本が必要ない |
デメリット | ・交通費 ・対応時間が平日の日中のみ | ・郵送費 ・書類に不備があると再送が必要 | ・不慣れなシステムで書類に不備が生まれやすい |
法令(消防法施行規則第三条の二)で必要とされている書類は2つです。
1の届出書の様式は、各消防機関のホームページからダウンロードできます。
2の書類は、防火管理講習を修了した際に、配布される書類になります。
まとめ
解説した内容を確認できれば、防火管理者の要否について判断ができると思います。
さて、記事が長くなったため、最後にこの記事の内容の要点のみおさらいします。
管理権限者の防火管理に関する権限(判断、指示等)を、防火管理者に委譲して、防火管理者が業務を代行することで、組織的に実効性を確保するため
基本的には、この3つの条件
① | 災害時に自力で避難することを困難なものが入所する社会福祉施設を含む建物のうち、建物全体の収容人員が10人以上のもの |
② | 飲食店、物品販売店、ホテル、病院などの不特定多数の人が出入りする用途を含む建物のうち、建物全体の収容人員が30人以上のもの |
③ | 共同住宅、工場、事務所などの用途のみの建物のうち、建物全体の収容人員が50人以上のもの |
条件1:防火管理に関する知識を持っている ⇒ 基本的には講習を受講して修了すること
条件2:管理的又は監督的な地位にある者 ⇒ 組織的に実効性を確保するため
建物の管轄消防署等に下の2つを届出(窓口、郵送、オンライン)
1:防火・防災管理者選任(解任)届出書 ⇒ 各消防機関HPからDL可能
2:資格を証明する書類(防火管理講習修了証等) ⇒ 基本的に講習修了時に配布される書類
繰り返しになりますが、防火管理者の要否の判断は、「建物全体の使用用途」と「法令で定められた人員計算」によります。
そして、要否を判断したら、実効性のある防火管理者を選任しましょう!
また、管理権限者(建物所有者、事業主等)は「防火管理者を選任して、業務終了!」と言うわけではありません。
ちゃんと防火管理業務を行っているか監督することが必要であるため、どんな業務が必要かも確認しておきましょう!
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